大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(ネ)999号 判決 1997年11月17日

控訴人(被告反訴原告) 株式会社 武富士

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 遠藤徹

被控訴人(原告反訴被告) X1

被控訴人(原告反訴被告) X2

被控訴人(原告反訴被告) X3

右三名訴訟代理人弁護士 後藤峯太郎

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  右取消しに係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  被控訴人X1は、控訴人に対し、金三五万六五一三円及び内金三五万一八二九円に対する平成七年三月九日から支払済みに至るまで年三六パーセントの割合による金員の支払をせよ。

4  被控訴人X2は、控訴人に対し、金五〇万四〇二一円及び内金四九万五七一〇円に対する平成七年二月二八日から支払済みに至るまで年三六パーセントの割合による金員の支払をせよ。

5  被控訴人X3は、控訴人に対し、原判決において支払を命じられた金員のほか、金二六万三一二七円及び内金二五万八〇七七円に対する平成七年三月一日から支払済みに至るまで年三六パーセントの割合による金員の支払をせよ。

6  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

7  第3項ないし第6項につき仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文第一項と同旨

第二事案の概要

次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人の新たな主張

1  貸金業法四三条一項及び三項にいう「任意に支払った」とは、「自己の自由な意思により支払った」という意味であり、債務者が支払前に利息又は損害金の具体的な金額を認識していることまで要求されるものではない。

2  控訴人が設置しているATMの多くは有人店舗内に設置されており(店頭窓口が利用可能な時間については店頭窓口を利用するかATMを利用するかは債務者の自由な意思に委ねられている。)、仮にATMを利用したとしても直ちに店頭窓口に申し出ることにより返済の撤回をすることは可能である。

また、店頭窓口を利用できない場合でも店内に社員がいれば、ATMに併設されているインターホンを利用することにより直ちに店内の社員が対応し、返済の撤回に応じるなど適切な対応をすることができる。

さらに、ATMが有人店舗内に設置されていない場合あるいは有人店舗内に設置はされているが店頭窓口が閉鎖され店内に社員がいない場合でも、同じくインターホンにより担当者とつながれており、返済の撤回申出に対し適切に対応できるようになっている。

したがって、ATMによる返済の場合であっても、被控訴人らは返済後に受取証書を確認して直ちに返済の撤回を申し出ることが可能であったものであり、店頭窓口において返済をし受取証書を受領した場合と同様に、被控訴人らは約定による利息や損害金の具体的金額を認識して支払ったものというべきであるから、任意に支払ったものといえる。

二  被控訴人らの新たな主張

1  貸金業法四三条は、貸金業者に対してのみ合理的な理由なく利息制限法の適用の特例を定めたものであって、憲法一四条に反し無効である。

2  また、同条の適用を受けようとする貸金業者は、利息制限法の定める利率を超える利息、損害金については債務者においてその支払の前にこれを支払うかどうかを自主的に選択して決定できるものであることを支払前に債務者に告知すべき信義則上の義務があるというべきところ、被控訴人らに対してはなんらそのような告知はされていないから、控訴人において同条の適用を主張するのは権利の濫用に当たり許されない。

3  同条一項又は三項の「任意に支払った」とは、当該利息又は損害金の支払義務が存在しないことを知りつつ支払ったとの意味に解すべきであり、本件において被控訴人らは債務が存在しないことを知りつつ支払ったものではないから、任意に支払ったとはいえない。

第三証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点に対する当裁判所の判断

次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の新たな主張について)

1  控訴人は、貸金業法四三条一項及び三項にいう「任意に支払った」とは、「自己の自由な意思により支払った」という意味であり、債務者が支払前に利息又は損害金の具体的な金額を認識していることまで要求されるものではないと主張するが、債務者が支払前に利息又は損害金の具体的な金額を認識していることを要するかどうかは、「任意に支払った」と言えるかどうかの問題ではなく、「利息として」又は「賠償として」支払ったと言えるかどうかの問題である。

そして、「利息として」又は「賠償として」支払ったと言うためには、債務者が利息の契約に基づく利息又は賠償額の予定に基づく損害金の支払に充当されることを認識した上で支払うことを要するものであり、そのように認識した上で支払ったと言うためには、債務者において、ATMにより返済をすれば約定に従い機械的に利息、損害金、元金に充当されるという抽象的な認識を有するのみでは足りず、具体的に一定の利息、損害金、元金に充当されるという認識を有することが必要である。その意味で、控訴人の採用しているATMのように支払前に利息、損害金、元本への充当予定額が示されず、支払完了後に受取証書が機械的に発行されるという場合には、その受取証書において充当額が記載されているとしても、それは支払完了後に控訴人が債務者に対して行った充当関係の告知であって、債務者がそれに対して異議を述べなかったとしても、それだけでは債務者において「利息として」又は「賠償として」支払ったとすることはできないのであって、「利息として」又は「賠償として」支払ったと言うためには、受取証書に記載される利息、損害金の金額が債務者の返済行為完了前に債務者において充当予定額として認識できるようになっていなければならない。

2  次に、控訴人は、控訴人の設置しているATMによる返済の場合には返済後に受取証書を確認して直ちに返済の撤回を申し出ることが可能な態勢になっていたから、店頭窓口において返済をし受取証書を受領した場合と同様に利息や損害金の具体的金額を認識して支払ったものと言うべきであると主張するので、この点について判断する。

前示のように利息又は損害金として支払ったと言うためには、返済行為の完了前に債務者において利息、損害金の充当予定額を認識していなければならないのであるが、店頭窓口において担当従業員に支払金を交付すると同時にその者から受取証書の交付を受ける場合にはその現金が当該担当者の手元にあっても未だ完全な占有移転が行われていない状態にあるといえるから、その場で即座に返済の撤回を申し出て交付した金員の全部又は一部の返還を受け、あるいは充当の指定をするということも可能であり、したがって右のような状態で受取証書の交付を受けた場合には債務者において返済行為の完了前に充当予定の利息、損害金の額を認識したと見ることもでき、担当従業員が受領した金員の収納手続をした後であっても、当該担当従業員と債務者がその場に残っていてほぼ同様の撤回が可能な場合には、同じく返済行為完了前に利息、損害金の額を認識して支払ったと見る余地があると言えよう。

しかし、控訴人の設置しているATMの場合には、それが有人店舗に置かれ、かつ、店頭窓口の利用が可能な場合であっても、債務者が返済した金員は機械的に収納手続がされ、その返済による充当処理の結果を明示した受取証書が機械的に発行されるのであるから、受取証書が発行された時点で返済金の占有は完全に控訴人に移転し返済行為は完了しているというべきであり、発行された受取証書を見た後即座に店頭窓口に移行して返済の撤回を求め、あるいはインターホンで担当従業員を呼び出して対応を求めても、その場合には当該担当者が返済の撤回を求める者からその者が実際に返済をしたかどうか等について新たに事情を聴取する等して対応しなければならないことになるから、店頭窓口における返済と同視することはできない。

また、控訴人は控訴人のATMについては返済の撤回申出に適切に対応できる態勢になっていたと主張するが、仮に控訴人において債務者からATMによる返済の撤回の申入れがあった場合にその申入れどおりの撤回に応ずる態勢をとっていたとしても、控訴人においてそのことをATMの利用者に知らしめるべき措置をとっていたことについては何ら主張立証がないから(受取証書における「不明な点がございましたら、係員までお問い合わせ下さい。」といった記載があることによっては、返済の撤回に応じるとの表示がされているとは言えない。)、実際にも、店頭窓口において返済をし受取証書を受領した場合と同視すべき状況にあったとすることはできない。

したがって、被控訴人らが利息、損害金の額を具体的に認識して支払をしたとする控訴人の主張は、採用することができない。

第五結論

以上判示したところによると、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 加藤英継 岡久幸治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例